ミチコさんが住んでいると言われているあっちの世界は、元は兄信彦を交通事故で失ったショックで意識を閉ざしてしまったイサコの治療のための電脳空間であった。
この治療用電脳空間はイマーゴ機能を活用し、患者の意識の中から心を癒すためのものを電脳物質化し、患者にとって理想的な空間を作り上げることができる。このため患者は心地よい空間で心の傷をじっくりと癒すことができるのである。
心の避難場所
自分の意識から作り出される世界とはいったいどのようなものであろうか?それはおそらく自身にとって最も都合のよい世界であろう。
つらい現実から一時的にでも逃避できる場所、あるいは逃げ込める場所は現実の世界ではなかなか存在しない。仮想の電脳空間とはいえ、そのような場所が用意されていれば確かに心の痛みを和らげることができるであろう。いわば自分専用の癒しの電脳空間だ。
そこでしばしの間つらい現実から離れ、最初のショックから落ち込んだどん底の精神状態から少しずつ前進するのだ。
イサコの場合その空間は、幼くして父親を亡くした後、唯一心を許していた兄信彦との想い出を再生する場所であった。そこはイサコ自身がもっとも望ましいと考えた場所と時間だ。そこで兄信彦との想い出を追体験し、自分自身に納得させるのだ、自分自身と兄の身に起きた事に折り合いをつけるために。







