4年前にメガネをかけていたユーザーに起きた一時的な意識不明や記憶喪失の原因には、古いバージョンのメガネにあった隠された機能の重大な欠陥が関連していると以前から噂が絶えなかった。
この機能とはかなり初期のバージョンのメガネにあった、装着者が思い浮かべたことを電脳物質化する機能のようである。
一般には電脳メガネを通して見ることのできる電脳物質は、市販されている電脳ペットや、ドメイン管理された電脳空間物質のみと考えられていたが、この隠し機能により装着者の想像の産物が電脳物質化され、電脳メガネを通じてアクセスできるようになる。
危険な想像の産物
この電脳物質化される想像の産物は、当然ながら装着者の人格、嗜好など個人の思い入れが反映されたものとなるが、これは非常に危険である。
人間というものは誰しも心の奥底に、他人には知られてもらいたくないことや、秘めた願望を持っているものである。
大人でさえ自分自信の内面の感情をコントロールするのは容易ではない。まして、小学生レベルではどうであろうか?
小学生の子供が、自分の願望や欲望に都合の良い電脳物質を作り上げることができる機能を電脳メガネが持っていると気が付いた時、その機能を理性的に使いこなすとは到底思えない。
自分に都合の良い想像上の友人、自分の代わりに嫌いなクラスメイトをいじめる想像上の悪ガキ、自分の思い通りに操れるペットなど、自己中心的な電脳物質がそこら中に溢れることは想像に難くない。
古くは映画「禁断の惑星」のイドの怪物にあるようなとんでもない怪物が出来上がるであろう。
4年前に電脳装着者が一時的に意識不明や記憶喪失になった事件は、この不具合を修正するためにメガマス社が何らかの更新作業を行った結果生じた副作用の可能性が大いにある。